キングアブドゥルアジーズ競馬場の特徴

左回りで、スタートは2コーナーから引き込まれたシュートコースにある。1800mながらワンターンで、スタートから最初のコーナーまで長く(約800m)先行争いが激しくなるコース形態。直線も長めで約400mある。字面だけでは先行馬にキツく、後方勢に有利なように見えるが、過去データを見るとそうとも言い切れない。

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過去4年の脚質別成績を見ると、3着内率は逃げ・先行馬が圧倒していて、差し・追込馬はたったの3頭しか3着以内に入れていない。ダートのレースらしく最初にダッシュを決めた馬がそのまま押し切るという展開が多く見られ、日本馬で唯一勝利しているのが逃げ馬のパンサラッサであり、激しい先行争い&長い直線というコース形態ながら、過去データ上では前に行った馬に有利という結果になっている。では今年も前に行った馬を狙うのがいいのか?答えはである。一体なぜか?昨年2024年のレースがヒントを示してくれている。

有利な脚質が変化している?

理由①ラップ

「前に行った方が有利」ということが強く浸透してきているのか、前半4Fのラップが非常に速くなってきている。2023年は快速馬パンサラッサが逃げたということもあるが、最初の2Fが23.77、次の2Fはダートとしてはかなり速い22.08で、前半4Fが45.85と前年と比べて2秒以上速いラップを刻んだ。にもかかわらず、パンサラッサはそのまま逃げ粘り見事優勝し、2,3着馬も半分より前にいた馬だった。2024年も前半4Fが46.01で2023年並みのペースで進み中盤の400mもほとんど同じラップだった。

大きく違ったのは上位馬の脚質で、道中は最後方に控え4コーナーでも10番手にいた追込み馬ウシュバテソーロが直線でグングン伸びて2着に入り、そのウシュバテソーロを抑えて優勝したセニョールバスカドールは、4コーナーでウシュバテソーロのさらに後ろ11番手にいた馬で、それまでの年では見られなかった追込み馬のワンツーでの決着となった。たった1年の出来事なので、たまたまこの年の1,2着馬が強かっただけという見方ももちろんできる。しかし、今後もこの傾向が続く可能性を感じさせるコメントが関係者からレースの前に出ていたことも事実である。そのコメントとは「馬場が今年(2024年)から変わった印象」というものである。

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理由②砂質の変化

新谷厩舎の松田調教助手が東スポに寄稿した記事の中でこのようなことを語っている。

結論からビシッと言えば、今年のサウジのダートは昨年とは大きく違う馬場。クッション性が良くなったのか、乗っていても馬の爪が深く入っていく感覚があるんですよね。(2024年2月23日東京スポーツより)

2023年までは、やや深いもののアメリカやドバイのダートに近いと評されていた砂質だったが、2024年はよりタフになったことを示唆している。その変化について松田調教助手は栗東の調教コースに例えてこう話した。

栗東の調教コースで例えるのなら、昨年の馬場はポリトラックに近いダート。芝も走れるスピードタイプに向いた状態だったのですが、今年のそれはウッドチップコースに近い。それも朝イチの締まったウッドでなく、ハロー駆けをして少しこなれたようなウッドです。(2024年2月23日東京スポーツより)

前述の通り、テンの4Fが46秒前後と速いペースで進み、もしも馬場状態が例年よりもタフな条件だったとしたら、当然前に行く馬には強い負荷がかかったであろう。後方で競馬を進めた2頭がワンツーを決めたことも偶然ではないと考えられる。

ところでダートの砂質については、アメリカ的か日本的かがよく論じられる。アメリカのダートは「土」っぽく、スピードが出やすい。日本のダートは「砂」で、スピードが出にくい分パワーが要求される。2024年のキングアブドゥルアジーズのダートは、日本寄りのパワーが要求されるものになっていたとしたら、スピードが重視されるダートを走るアメリカ馬の成績はどうだったのだろうか?過去のものと合わせて見てみよう。

本場アメリカの成績は?

①アメリカ馬の成績

実は2024年もアメリカ調教馬は上位に名を連ねている。1着のセニョールバスカドールを筆頭に、3着サウジクラウン、4着ナショナルトレジャーと5着以内に3頭が入線していて、決してパフォーマンスを下げたと言えるような結果にはなっていない。ちなみに2021〜2024までの国別の成績は以下のようになっている(開催初年度の2020年は1位入線馬の禁止薬物使用問題があったため、集計からは除いた)。

アメリカ調教馬の3着内率は40%越えで、実際2024年も5頭中2頭が3着以内に入っていて、例年通りのパフォーマンスだったと言える。しかし、着外になった中には前年のBCクラシック覇者で1番人気を背負ったホワイトアバリオがいて(10着)、過去4年で着外となったアメリカ馬8頭の中にも、大レースで好走歴があったにも関わらず、このサウジカップでは馬群に沈んだ馬が6頭もいた。好走するアメリカ馬と凡走するアメリカ馬、過去を紐解いてみると、それを分けるのは意外な戦歴だった。

②危険な?ローテ

過去4年で着外となったアメリカ馬8頭中6頭に共通するのは、驚くべきことにアメリカダートGⅠのビッグレースでの好走歴だった。

  • 同年のペガサスワールドC優勝
  • 前年のBCクラシックで3着以内
  • ケンタッキーダービーで3着以内

上記3つに該当した馬は、過去4年ですべて4着以下に敗れている。つまり3着以内に入ったアメリカ馬はそれらのレースで好走していないのである。実際、2024年の1〜3着馬は前年のBCクラシックで、7着、5着、10着と惨敗している。おそらく、小回りで直線の短いアメリカの競馬場と、ワンターンで直線の長いキングアブドゥルアジーズのコース形態が真逆なので、アメリカのビッグレースの好走歴がサウジカップには直結しないということなのだろう。BCクラシックで好走している馬は人気になりやすく、大きく負けている馬は人気を落とすのが自然なので、馬券的にも狙うべきなのは、BCクラシックで凡走している馬ペガサスワールドCで敗れている馬ケンタッキーダービー未出走か4着以下だったアメリカ馬の巻き返しなのである。ちなみに今年出走を予定している日本馬フォーエバーヤングは、ケンタッキーダービー3着、BCクラシックでも3着と好走していて、過去のパターンからいくと着外になる危険な人気馬になってしまうが……ただし、上記3つのうち2つ以上を満たした馬はいないので、フォーエバーヤングが前例を覆してくれるのを祈るばかりである。

まとめ

昨年(2024年)からそれまでの傾向と違う面が見られ、追込み馬のワンツーとなった。変わらなかったこともあり、それはアメリカ調教馬の好走である。ただし、ペガサスワールドCの優勝前年のBCクラシック3着以内ケンタッキーダービー3着以内の戦歴がある馬は馬券に絡んでいない。これらを総合すると狙い目は、それらのレースで負けていて、なおかつ先行していなかったアメリカ調教馬ということになる。もしくは、アメリカダートで逃げようとして逃げられずに敗れた馬の巻き返しにも気をつけたい。さあ、今年の出走予定馬の中でそれを満たす馬はいるのだろうか。また、アメリカ調教馬ではないが、ケンタッキーダービーとBCクラシックの両方で3着だったフォーエバーヤングは好走できるのか。レースまでじっくりと検討したい。